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手紙をちょっとのぞいてみちゃう!森見登美彦の『恋文の技術』

『恋文の技術』森見登美彦 あらすじと感想

〈あらすじ〉

 京都の大学院から、遠く離れた実験所に飛ばされた男が一人。無聊(ぶりょう;たいくつ)を慰めるべく、文通修行と称して京都に住むかつての仲間たちに手紙を書きまくる。文中で友人の恋の相談に乗り、妹に説教を垂れるが、本当に想いを届けたい相手への手紙は、いつまでも書けずにいるのだった。

 

〈感想・ネタバレ有り〉

 遠くの実験所へ飛ばされた男・守田一郎が友人や妹、先輩に出した手紙のみを私たちは見ることができる、そんな書き方になっている。

 

 不思議なことに、相手からの手紙の内容は見ることはできなくても、手紙でどんなやり取りがあったかが見えてくるのである。

 

 人の手紙を読むというのは、何だか少し気恥ずかしく思えるものだと思うが、そこは森見ワールドである。森見作品の主人公はクセが強いのだ。よって「なんだコイツ!?」という感情を抱いて物語を進めていくこととなる。

 

 そんな変人の守田だが、文通を始めるきっかけとなった出来事が”京都から離れるサンダーバードから少年が赤い風船を飛ばした”のを見たことである。

 これを見て彼は『文通の腕を磨こう』と思ったのだ。そして、その理由が最終章でわかる。実は彼は小学生の時に文通の経験がある。赤い風船に手紙をくくりつけて飛ばしそれを拾った人と文通をしていたのだ。そして彼は顔の見えない文通相手に恋をした。

 

 幼少期の文通は叶わない恋と、庭で出せなかった恋文を燃やしたら救急車がやってくるという黒歴史を彼に与えたのだ。

作者の思うつぼ!

 

 物語を読み進めていくと、「やっぱり手紙って良いな~」と思わずにはいられない。

 

 小学生の時から携帯があった私は、手紙といえば授業中にコソっと回したものぐらいしかないのだ。手紙が主流だった世代は、届いた手紙を読んで相手の過ごした時間を想像したりしてたんだろうか。

 

 手紙に並々ならぬ憧れを抱いていると、なんと『第十一話』で登場人物同士が手紙でやりとりしているではないか!

 「守田に影響されたわけじゃないんだけど、手紙を書いてみたよ」って…!がっつり影響されとるがな。

 

 「ここまで読んできて、文通したくなったでしょ?」って、まるで考えが見透かされた気分だ!本当に私ってば単純!森見登美彦先生の思うつぼだわ。

 

想い人、伊吹夏子さんへの手紙

 恋文に苦い思い出がある守田一郎ですが、想い人がいるのです。仲間たちとの文通を通して、高めた文通力を生かして恋文を書こうとしますが上手くいきません。

 

 送ることのできない失敗作9つも生み出すのです。(これも読むことができます。)

自分を卑下しすぎてはいかん、かといって畏まり過ぎる内容もダメだ。テンションが高すぎても頭おかしい人みたいだし…。

 

 とたくさん悩みに悩んだ結果、やっと一通彼女に贈ることができるのです。

 これはとてもとても長い恋文で「好きです」って言葉は入ってないんですが、好意が滲んでいます。

 

 失敗作を積み重ねていく守田を見守ってきた私としては「頑張れー!伝わってくれー!」と応援せずにはいられませんでしたよ。

 

 そんな守田一郎ですが自身の恋文の最後でこのように彼女に告げています

守田一郎流「恋文の技術」を伝授致します。コツは恋文を書こうとしないことです。僕の場合、わざわざ腕まくりしなくても、どうせ恋心は忍べません。

ゆめゆめうたがうことなかれ。  (P.339)

…やったぁ!

 

 この締めはズルいぞ!「好きです」って言葉より良いじゃないか。ようは「言葉にしなくても、普通の手紙のつもりでも好意がだだ漏れになってしまいます」ってことでしょ?全然守田タイプじゃないのに…!これはズルいぞ!(2回目)