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『新釈 走れメロス』 森見登美彦の書く「走れメロス」がかなりぶっとんでいる

『新釈 走れメロス森見登美彦 あらすじと感想

新釈 走れメロス 他四篇

新釈 走れメロス 他四篇

 

★〈あらすじ〉

 あの名作が京都の街によみがえる!?「真の友情」を示すため、古都を全力で逃走する21世紀の大学生(メロス)(「走れメロス」)。

 恋人の助言で書いた小説で一躍人気作家となった男の悲哀(「桜の森の満開の下」)。

馬鹿馬鹿しくも美しい、青春の求道者たちの行き付く末は?誰もが一度は読んでいる名篇を、新世界を代表する著者が、敬意を込めて全く新しく生まれかわらせた、日本一愉快な短編集。

 

★〈感想・ネタバレ有り〉

 題名を見て手に取った時は、森見登美彦が『走れメロス』を現代版にするとこんな感じですよ、という作品なんだと思った。ただ実際はパロディーといっていいのか怪しいほどオリジナルの強い作品だった。

 

 題材になっている走れメロスの配役はメロスが芽野史郎(めのしろう)、友人のセリヌンティウスが芹名雄一(せりなゆういち)となっている。

ちなみに原作「走れメロス」のあらすじは以下の様である。

青年メロス(Moerus[7])は、妹の結婚のために[8]必要な品々を買い求めにシラク[9]の町を訪れたが、町の様子がひどく暗く落ち込んでいることを不審に思い、市民に何が起きているのかを問う。そして、その原因である人間不信のために多くの人を処刑している暴君ディオニス王の話を聞き、激怒する。メロスは王の暗殺を決意して王城に侵入するが、あえなく衛兵に捕らえられ、王のもとに引き出された。人間など私欲の塊だ、信じられぬ、と断言する王にメロスは、人を疑うのは恥ずべきだと真っ向から反論する。当然処刑される事になるが、メロスはシラクスで石工をしている親友のセリヌンティウスを人質として王のもとにとどめおくのを条件に、妹の結婚式をとり行なうため3日後の日没までの猶予を願う。王はメロスを信じず、死ぬために再び戻って来るはずはないと考えるが、セリヌンティウスを処刑して人を信じる事の馬鹿らしさを証明してやる、との思惑でそれを許した。

走れメロス - Wikipedia

 

  一方で森見登美彦の書く「走れメロス」は学校を牛耳る人物の怒りに触れてしまった芽野は”桃色のブリーフ1丁で踊る”という辱めを受けさせられそうになる。しかし『姉の結婚式に出たい。必ず戻ってくる』とウソをついて親友である芹名を身代わりに置いていき、辱めを逃れようとする。それがバレ、京都の街を逃げ回る、というお話である。

 馬鹿な大学生がおりなすドタバタコメディーにあきれながらも笑ってしまう。「あいつに姉はいない」という平然と言ってのける芹名にも、『お前はドМか!』と思わずツッコミたくなってしまう。

 

 そういえば原作の「走れメロス」でもメロスがご飯を食べたり、寝坊してしまう、なんてシーンがあった。学生の時に「友人の命がかかっているのに寝坊するなんて!」と思った記憶がよみがえってきた。芽野のすがすがしい程の薄情さはここからきているのかもしれない。

 

 他四篇に関しては私は原作を知らないので、何とも言えないが、原作を知らなくても楽しく読めるようになっていたと思う。個人的には『桜の森の満開の下』が好きだなと思う。栄光と自分の信念の間で揺れる主人公にとても共感できる。

 原作を知っていたら、どこにパロディーが用いられているとか、誇張しすぎだよー、とかただ読むだけとは違った面白さのある作品なんだろうな、と感じた。