魔法少女のステッキ

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『あなたにもできる悪いこと 平安寿子』 ―そのトラブル、利用させていただきます。

『あなたにもできる悪いこと』平安寿子 あらすじと感想 

あなたにもできる悪いこと (講談社文庫)

あなたにもできる悪いこと (講談社文庫)

★〈あらすじ〉

 年寄りのセクハラ騒ぎ、教師の不倫にNPOの着服疑惑。きれいごとの裏にトラブルあり、トラブルあるところに和解金あり。舌先三寸で世間を渡るインチキセールスマンと食えない女がタッグを組んで、そのおこぼれをかすめ取る。世の偽善と保身を逆手にとってひと儲け!痛快ピカレスク小説。

  • 金が天下を回るから
  • ユニオン
  • 我が善き心に栄えあれ
  • 神様によろしく
  • あなたが選ぶその人は
  • カエサルのものはカエサル

 

★〈感想・ネタバレ有り〉

 あらすじでピカレスク小説”とありますが、コメディー小説のひとつとして普通に面白かったです。

 主人公は檜垣。身長178センチ、体重65キロで「単なるハンサムではなく、好感を持たれる」容貌を生かしてインチキセールスマンとして生業を立てていた。ひょんなことから、トラブルの渦中にいる人物たちに和解を提案してお金を儲けるようになる。相棒は無愛想で美人とは言い難い女 畑中里奈

 

 仕事は里奈から毎回持ち込まれ、檜垣の口舌と頭の回転の速さで乗り切っていく。彼らの狙いは大金ではない。警察や弁護士を呼ばれない、逆恨みもされない、そんな絶妙な金額を狙うのだ。『公にしたくない問題は金になる』二人のターゲットはそんな問題を隠している人たちだ。

 

 『ユニオン』でのターゲットは不倫をしている教師だ。信頼が大切な教職、このことが明らかになるとこの教師にとっては大ダメージになるだろう。檜垣の口述は巧みで、この教師・教師の妻・不倫相手×2をたくみに誘導していく。登場人物は多いが、それぞれの言い分もキャラを得ているし、なによりテンポが良い。それぞれが「自分が得をしたい」という欲望を垣間見せるのが非常に人間臭くて面白い。最後には女性陣が結託するのだが、みな平等という女性の集団意識をうまく利用しているな、と思わず感心してしまった。

 

 

 檜垣の話術を持ってしてでも誘導が楽な場合ばかりではない。我が善き心に栄えありでは選挙出馬を目論むNPO法人の代表者が。『あなたが選ぶその人』では立候補者の秘書と対決する。彼らは疑惑でゆすっても、焦りもしない。返答もきちんと用意されている。彼らのような立場の人間はその手の”揺すり”にはなれっこなのだ。それに加えて話すことにも慣れている。一筋縄ではいかず、檜垣との勝負が見えないので、読んでいてとても楽しい。

 口数の少ない里奈のナイスアシストもあって、ようやく相棒らしくなるのが、少し微笑ましい。

 

 この物語は檜垣という男のキャラクターが盛り上げてくれているといっても良いと思う。仕事の貢献度では里奈よりも上であるはずなのに、イニシアティブを握れなかったり。里奈には仕事以外で関心を向けてもらえなかったり(仕事成功の打ち上げは毎回断られる)。『お金が世界で一番好き』だと言い切ってしまったり。有能なだけじゃない檜垣のダメなところが物語をコミカルなものへと仕上げてくれている。饒舌というのも物語にスピード感やテンポが出てすごく読みやすかった。

 

 人はお金に左右されていきているんだなあと思わされる作品だった。取れる金額に一喜一憂したり、敵同士が結託したり、お金で全て思い通りにしている人がいたり。それこそ大金に目がくらんで、とんでもないリスクと背中合わせになっている人がいたり。作中ではコメディーに描かれていてさっと流してしまいそうになるけれど、現実にも有りえる話ではあるよな、なんて思いながら読んでいた。

 主人公の檜垣も大金に惑わされそうになるのですが、相棒の言葉で踏みとどまります。『大金の裏にはとんでもないリスクがある』これは忘れてはダメですね。