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魔法少女のステッキ

好きなことを好きなだけ。

夜は短し歩けよ乙女 森見登美彦

『夜は短し歩けよ乙女 森見登美彦』を読み終えました。

 

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

 

★〈あらすじ〉

 「黒髪の乙女」にひそかに想いをよせる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。けれど先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する”偶然の出逢い”にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。そんな2人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者たちと珍事件の数々だった。キュートでポップな恋愛ファンタジーの傑作!

  • 第一章 夜は短し歩けよ乙女
  • 第二章 深海魚たち
  • 第三章 御都合主義者かく語りき
  • 第四章 魔風邪恋風

 

★〈感想・ネタバレ有〉

 「黒髪の乙女」は現代でいう不思議ちゃんだ。頭のねじが一本抜けているというか、マイペースすぎるというか。どんな珍事件に巻き込まれようと「楽しい、賑やかだ」と独特の感性の持ち主であることがうかがえる。そんな彼女と”良い関係”になりたい「先輩」は彼女をとりまく珍事件に巻き込まれながら奔走する。

 

 読んでいて「”先輩”の頑張りに気付いてあげて!」と思うシーンがどれ程あっただろうか。近くにいるのに微妙にすれ違ってしまう、頑張りが彼女にうまく届かない、そんな2人にじれったさを感じてしまう。

 第2章で「先輩」の位置づけが明らかになっていく。彼は意中の相手のために懸命になるものの、何故だか相手と微妙にすれ違ってしまう『ザ・不憫なヒーロー』というところであろうか。そんな愛されるべきキャラクターの彼に声援を送りたくなる読者は多いのではないだろうか。私もそんな一人である。

 

 第3章で彼の努力がやっと少しだけ形になる。学園祭に便乗して彼女を抱きしめることができたのだ。この学園祭もハチャメチャで『象の尻の展示』があったり『ゲリラ演劇』があったり『韋駄天コタツ』に手を焼く事務局長がいたり、とかなりぶっ飛んでいる。彼女は『ゲリラ演劇』に巻き込まれ、謎の使命感を持ちヒロインを務めることとなる。なんでそこで使命感を感じてしまったのか、彼女のずれた感性に思わず笑ってしまう。そんな彼女に恋をする先輩はさぞかし大変であろう。話の中に『達磨』がたくさん出てくるのだが、私はこれの意味を読み取ることが出来なかった。あの『達磨』推しにはいったいどんな意図が隠されていたのだろうか。

 

 第4章でついに…!となった時はすごく達成感を得ることができた。「黒髪の乙女」はどれ程「先輩」に出逢っても『奇遇ですねえ!』としか感じていなかった。なのに最後の最後は『こうして出逢ったのも、何かの御縁。』とまで変化したのだ。彼の努力が報われ私も本当に救われた気がした。私はどうやら彼にそうとう肩入れをしていたみたいだ。二人の恋愛感情は大学生のそれよりずっと幼くて純粋である。まるで幼稚園児の恋模様を垣間見たようで実に可愛くて微笑ましい。

 

「あんた一期一会という言葉を知っているか。それが偶然のすれ違いになるか、それとも運命の出逢いになるか、すべては己にかかっている。」(P.231)

 とあるように彼は自らの努力で運命を手に入れたのだ。だか、「黒髪の乙女」 を手に入れるのに、これほどの困難がまちかまえていたとは……。

 ハチャメチャな設定や展開に思わずツッコまずにはいられないし、彼女のずれた性格もだんだんと可愛く思えてくる。天然・不思議ちゃんがモテる理由がここにある、というか。読み終えると笑顔になっているそんな作品だと思う。