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魔法少女のステッキ

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風に舞いあがるビニールシート 森絵都

読書

風に舞いあがるビニールシート 森絵都

 

風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)

風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)

 

〈あらすじ〉 

 才能豊かなパティシエの気まぐれに奔走させられたり、犬のボランティアのために水商売のバイトをしたり、難民を保護し支援する国連機関で夫婦の愛のあり方に苦しんだり……。自分だけの価値観を守り、お金よりも大切な何かのために懸命に生きる人々を描いた6編。あたたかくて力強い作品

 

〈感想・ネタバレ有〉

 森絵都さんの作品は「カラフル」しか読んだことがなかったので児童文学のイメージの強い作家さんだったのですが、一般文芸である本作「風に舞いあがるビニールシート」は全く違う表情を持っていておもしろかったです。

 

 本を開くと1作品目の『器を探して』が始まります。もしこれが『鐘の音』スタートだったならば私はこの作品を選んでいないかもしれません。『鐘の音』ももちろん読み応えがあるのですが、独特な雰囲気を強く持っているので、人を選ぶ作品かもしれないなあと思いました。

 

 『器を探して』は弥生という女性が「仕事」と「恋人」を天秤にかけて奔走する物語で、彼女をとりまく人物たちはなかなかのクセの持ち主なのである。結婚を考えている恋人、憧れている仕事、どちらも大切だからどちらか一方を選ぶことができなくて…。夢を叶えた仕事に就いている人には共感できる部分が多いのではないだろうか。弥生が理知的な女性であるのでイライラすることなく、物語もスピード感があってスルスルと読むことができた。

 

 私が一番気に入った話は『守護神』であった。社会人学生である祐介とニシナミユキのやり取りがテンポ良く、そんなところがとても好きだった。「徒然草」や「伊勢物語」に関する独自の分析を祐介が述べていくシーンは古文好きにはたまらなくワクワクすると思う。『守護神』の話の筋は祐介が自分の本心(やりたかったこと)に気付いていく、というものである。”大人が青春をやり直す”とか”損得勘定なしの本心”とか。こういうテーマに弱い人は意外といるのではないだろうか。私もこのようなテーマには弱い一人のようだ。この話の道筋以外にも、古文の観点からも本当に楽しめるので是非おススメしたい。ニシナミユキと会うために祐介が集めたニシナミユキの情報(噂)も最後にきっちり伏線として回収されていったのもすごくスッキリした。

 

 本作「風に舞いあがるビニールシート」の主人公たちはみんな「大切な何か」を抱え、そのために「懸命に生きている」。主人公たちの迷いが、葛藤が、そして決意が彼らの日常に描かれていて、その姿に共感と感銘を受けた。

 どの主人公たちも等身大なので、どの話も日常で起こりうる、と私は思っている。彼ら、彼女らに共感することで、同時に今の私の生き方を問われている様に感じた。