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魔法少女のステッキ

好きなことを好きなだけ。

思い出のとき修理します 谷瑞恵

思い出のとき修理します 谷瑞恵

 

思い出のとき修理します (集英社文庫)

思い出のとき修理します (集英社文庫)

  

〈あらすじ〉

 仕事にも恋にも疲れ、都会を離れた美容師の明里。引っ越し先の、子供の頃に少しだけ過ごした思い出の商店街で奇妙なプレートを飾った店を見つける。実は時計店だったそこを営む青年と知り合い、商店街で起こるちょっぴり不思議な事件に巻き込まれるうち、彼に惹かれてゆくが、明里は秘密を抱えていて……。

  • 黒い猫のパパ
  • 茜色のワンピース
  • 季節はずれの日傘
  • 光をなくした時計師
  • 虹色の忘れ物

 

 

〈感想・ネタバレ有〉

 『思い出のとき修理します』という題名に惹かれてついつい手をのばしてしまった。どういう意味なんだろう?思い出の修理とはなんだ?そんな疑問を感じながら本を読み始めた。

 時計屋さんの飾られているプレート『思い出の時 修理します』。実はただ単に『時計』の『計』の文字が抜け落ちてしまっただけであった。だがこのプレートの通り、明里と時計屋の秀司は「思い出の修理」に奔走することとなる。

 

 この本の題名に一番合致していたと感じるのは『茜色のワンピース』だ。老婆の「このワンピースを着て二人でデートしてくれない?」という不思議な依頼を明里と秀司は引き受けることとなる。老婆の若かれし頃のデートの思い出を再現、そして楽しいものへと上塗りをしていく。あの時は感じることができなかったこと。いまだからわかること。本当はこうじゃなかったのかもしれないという誤解。これらをひも解き、悲しかったはずの思い出が、優しく切ない思い出へと修理されていった。出来事が変わったわけではないのに、思い出から受ける感情が変化するなんて不思議だ。思い出の修理とはこういうことなんだろうか?この章から『思い出修理』のとらえ方が少し見えてくる。

 

 『光をなくした時計師』から思い出の修理は主人公の過去へと及んでいく。秀司が抱える過去や、明里が引っ越し先をここにした理由が明らかになってくる。二人の距離もグッと近くなる。ただ秀司の元カノと兄がなかなかの人物なので、ちょっとな…と思う部分もある。もっと別の話じゃダメだったんだろうか。一方で明里の過去と傷が明らかになっていく過程の描写はとても好きだった。子供の頃って記憶が曖昧だったり、偏っていたりするものだと思うから、思い出や記憶のつじつまが合わないのが当然だと思う。様々なことが記憶のピースみたいになっていて、ゆっくりと少しずつ『思い出のズレ』が正されていくのが、すごく主観的でよかった。

 

 他人の思い出を修理する際に、明里が幻覚を見たり、憑依されたり(?)な描写があるのが少し現実味に欠けるな思う部分はあるが、人物のやりとりや言い回しに優しい雰囲気が溢れていて、あたたかでノスタルジーな作品だと思う。さびれた商店街という舞台設定や”時”というキーワード、秀司のキャラクターなんかも好みだったので(私の中では草食系イケメンで再生された)、私は面白く読むことができた。

 

 『人は過去に戻ることが出来ない以上、過去の事柄を変えることは出来ない。ただ思い出は、そこにあった誤解、見付けられなかったことを1つ1つひも解いていけば、悲しみの色を変えることが出来るかもしれない。優しく、鮮やかな色を持つことだってあるかもしれない。』そんなメッセージのつまった作品かと思います。