魔法少女のステッキ

好きなことを好きなだけ。

夜のピクニック 恩田陸

夜のピクニック  恩田陸

f:id:arasukkiri:20151205012509j:plain

〈あらすじ〉

 高校生活最後を飾るイベント「歩行祭」。それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統行事だった。甲田貴子は密かな誓いを胸に抱いて、歩行祭にのぞんだ。三年間、誰にも言えなかった秘密を清算するために―――――。学校生活の思い出や卒業後の夢などを語らいつつ、親友たちと歩きながらも、貴子だけは、小さな賭けに胸を焦がしていた。

〈感想・ネタバレ有〉

 主人公は”高校最後のイベント”になる二人の男女、西脇融甲田貴子である。周囲からは付き合っているのではないかと噂をされている二人だが、同じクラスにいながらも口をきいたこともない。誰よりも強く相手を意識しながらも避けてきた。そんな二人の因縁が徐々に明らかになっていく。


 「意識しないでいようとすることが既に意識してしまっている。」なんて言葉を聞いたことがあるが、融はまさしくこの状態にあって、一方で貴子はそんな融の意識に入るまいとしている。そんな二人は周りから見れば”わざと意識していないように見せようとしている”様に見えているのだ。今まで避け合っていた二人だが、二人の事情を知らない友人たちの策略により「歩行祭」で言葉をかわすこととなる。結局、二人の因縁は友人たちに明らかになってしまうのだけれど、その後に二人で歩くシーンはスッキリするような清々しさを感じた。これからの二人がどういう関係を築いていくのかすごく気になる。


 二人の因縁が明らかになる別サイドでクラスメイトたちの実に高校生らしい悩みや想いが描かれている。もっと恋をしたらよかった、とか。素直になっておけば良かった、とか。進路に関する話も頻繁に取り上げられていたかな。こういった会話の中で、融と貴子もそれぞれ感じることがあったのではないかな。きっとこのシーンがなかったら融と貴子が二人で歩く、なんてことはできなかったと思う。


 融の友人、のセリフで『しまった、タイミング外した(P.188)』というシーンがある。忍には教育学に通ずる従兄弟がいて、その時々に相応しい本を選んでくれていた。しかし、当時の忍がそれを読むことはなく、成長したまたま時間があった時に手に取った。『当時読めていたら今の自分を作るための何かになっていたはずだ。そう考えると悔しくてたまらない。』そう思うのだと。
 このシーンはすごく共感できた。物事を行うにはタイミングってとても重要だと思う。この「夜のピクニック」だって私が学生時代に読めていたらきっとまた違った今があるんじゃないかな。学校への思いとか、友人関係とか、その時にしか感じられないことなのだともっと強く意識できていたらなあ、と感じた。


 本を読み進め、「歩行祭」が終わりに近づくと私自身が歩いたわけではないのに不思議と達成感が湧いてくる。登場人物たちが「歩行祭」の中で自分と向き合って成長するのと同時に、内容に共感した私もいろんな感性を分けてもらえた気がする。


 『夜のピクニック』は学生時代を終えた私からすると、切なくて、懐かしくて、でも温かみのあるノスタルジックな作品だった。静かに静かに物語が進んでいく様がたまらなくドキドキした。読み終えると物語の進行がであることと、全校生徒が参加(つまり最高学年は三回経験しかつ今年が最後である)する、こう設定の意味合いが少し見える気がした。